☑ 物を売ったのに代金を払ってくれない。
☑ 家を建てた・リフォームしたのに請負代金を支払ってくれない。
☑ 貸家の借主が家賃を滞納し続けている。
☑ 強制執行認諾文言付き公正証書があるから強制執行をしたい。

 こういった場合には、兎に角、早期に債権・売掛金の回収をしたいと思われると思いますが、強引な債権回収はトラブルの元です(場合によっては恐喝等の刑法犯や不法行為にあたってしまうこともあります。)。

 そのため、債権・売掛金を回収したい場合には、まずは弁護士にご相談いただき、現実の回収の見込みも含めて検討し、回収手続きをご依頼いただければと思います。

 債権回収のご依頼を受けた場合には、ご相談内容に応じて下記のような手続きを行います。

弁護士名義の内容証明郵便での催促・督促

 内容証明郵便は、送付者・郵便局・受領者の3者に同じ内容の文書が残ることで、送付した文書(受領者の手元にきた文書)と送付者の手元に残る文書が同一内容の文書であることの証明が可能となる文書であり、これ自体に特別な法的効果があるわけではありません(訴訟における証拠として価値が高い、という効果はあります。)。
 そのため、法人の代表者名義で催促・督促の文書を内容証明郵便で送っても、相手方には響かない可能性があります。

 弁護士名義で内容証明郵便を出しても、この法的効果に変わりはありません。

 もっとも、弁護士が、「いついつまでにお支払いただけない場合には、法的措置を執ります。」と書いて、証拠として利用できる内容証明郵便の形で催促・督促をするということは、「期限内に支払わなければ本当に裁判をする」という強いメッセージになります。
 そして、相手方が「払えるのに払わない」ようなタイプであれば、「裁判になればこちらも費用がかかって損だ」と考え、任意の支払に応じる可能性が高くなります。

民事調停

 民事調停は、簡易裁判所を使った話し合いの手続です。
 裁判手続きは、どうしても「争い」「闘い」という色が強くなってしまう上、公開手続きであるため、その後の商業取引が難しくなってしまう可能性が高くなります。
 他方で、民事調停は、非公開の話合いの手続ですから、相手方の事情もざっくばらんに聴きながら、より柔軟に、支払ってもらうための道筋をつけることができる可能性があります。
 また、調停で合意できた内容は、裁判における判決と同様の効果を持ちますから、相手方の不履行に備えることもできます。

 もっとも、飽くまで「話し合い」であるため、相手方も話し合いに応じる姿勢になってもらわなければなりません。もしも、これまでにも催促・督促をい繰り返したにもかかわらず、全く聞く耳を持たないような相手方である場合には、調停は効果がないかもしれません。

訴訟

 債権回収の最もスタンダードな手続が訴訟です。
 「訴訟は何年もかかる」というイメージを持たれているかもしれませんが、ここ最近の民事訴訟の第一審の平均審理期間は、6.5か月程度です。

…本件調査機関における民事第一審訴訟事件の既済件数は19万2246件であり,平均審理期間(事件の受理日から終局日までの期間の平均値)は6.5か月である。

裁判の迅速化に係る検証に関する報告書 1.1.1 平均審理期間と事件数について

 また、民事訴訟においては、第1回目の期日に相手方が出頭しない場合や、原告の主張を相手方が認めている場合(争っていない場合)には、1回目で手続きが終了し、判決がなされることも多々あります。

 さらに、裁判になったとしても、裁判内での和解をすることで相手方の事情に配慮した支払方法を決めることもできます(判決の場合は、判決後に別途合意しない限り、原則として1回払いになってしまいます。)。

 なお、相手方に今現在支払う余力がない場合であっても、事業を継続しているのであれば、将来的に余力が生じた際に強制執行ができるように判決を得たり、訴訟上の和解をしたりすることは無駄ではありません。

強制執行

 判決、和解調書、調停調書、強制執行認諾文言付き公正証書等を既にお持ちの方は、強制執行をすることができます。

 強制執行をするにあたっては、執行対象となる相手方の財産を特定する必要があり、これまでは、これが非常に困難であり、強制執行の妨げになっていました。

 こういった状況を受け、2020年4月1日、改正民事執行法が施行され、従前よりも相手方の財産の特定が容易になりました。
 具体的には、次のような変更がありました。

1.財産開示手続の強化

① 申立要件の緩和
 これまでは、仮執行宣言付判決、支払督促、公正証書による強制執行の場合には、財産開示手続の申立ができませんでした。
 これが、改正により、金銭債権であればすべての種類の債務名義で財産開示手続の申立ができるようになりました。

② 罰則の強化
 これまでは、財産開示に応じない債務者に対しては、30万円以下の過料の制裁が科されるだけでした。そのため、「財産を開示するよりも30万円払った方が安い」と考える余地が生じてしまっていました。
 そのため、今回の改正により、財産開示手続期日への不出頭、宣誓拒絶、不陳述、虚偽陳述について、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されることになりました。
刑事罰ですから、これらの行為を行えば前科・前歴が付く可能性が、酷ければ懲役刑により刑務所に行かなければならなくなる可能性が生じることになり、従前よりも強い拘束力が生じることになりました。

2.第三者からの情報収集手続の新設

 これまでは、「〇〇銀行に預金がありそう」というところまで把握していても、支店まで特定できなければ強制執行を行うことはできませんでした。また、個人の勤務先や不動産を手当たり次第に探すことにも限界がありました。
 こういった不便を解消するため、次の方法が新設されました。

① 債務者の不動産にかかる情報の取得(新法205条)
 債務者が所有権等の登記名義人になっている土地・建物についての情報の開示を、登記所に対して求めることができるようになりました。
 なお、財産開示手続を先行させる必要があります。

② 債務者の給与債権にかかる情報の取得(新法206条)
 債務者の給与債権に関する情報の開示を、市町村、日本年金機構及び共済組合等に対して求めることができるようになりました。
 ただし、この手続きを利用できるのは、⑴養育費の請求権、または、⑵人の若しくは生命身体の損害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者ですので(新法206条1項)、法人の場合には利用機会がほとんどないでしょう。
 なお、本手続も財産開示手続を先行させる必要があります。

③ 債務者の預貯金債権等に係る情報の取得(新法207条)
 債務者の預貯金や株式等に関する情報の開示を、銀行等や証券保管振替機関等に対して求めることができるようになりました。
 本手続については、財産開示手続を先行させる必要はありません。


 今後は、上記のような手続きを駆使しながら、債権回収に臨むことになります。