法律事務所(弁護士法人)の破産…

 解散したことが一部で報道されていた「弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所」(以下「東京ミネルヴァ」と言います。)について,本日,破産手続開始決定がなされたことが明らかになりました。

参考:弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所|東京都港区(東京経済ニュース)

 弁護士法人の破産って聞いたことがないですよね。私も初めて目にしました。負債総額は51億円というのもすごい数字です。
 さらに,破産手続開始のきっかけが,第一東京弁護士会が会費未納に基づく債権者破産を東京地裁に申し立てた,というのも初めてのことではないでしょうか。

なぜ破産に至ったのか…?

 現時点では不明です。
 会費の未納があったということですが,第一東京弁護士会の法人会員の会費は,社員が11人以上で月3万3200円程度です。そのため,1年滞納しても約40万円程度にしかなりません。負債総額51億円には遠く及びません。

 大きな債務として考えられるのは,①広告費の未払い②事務職員・所属弁護士の給与未払い③オフィス賃料の未払い,そして,④依頼者からの預り金債務です。
 ①②③は弁護士(法律事務所)でなくともあり得る債務ですが,④は弁護士特有の債務と思われます。

 弁護士は,依頼者の方のお金を預かることがあります。よくあるのは,①事件の相手方から回収したお金の預かり,②破産事件の予納金の預かり,③民事再生事件の積立金の預かり(再生計画履行確認の預かり)の3つかと思います。

 この中で,②と③はそれほど金額が大きくなることは多くありません。破産の予納金は事業をしていない個人の方だと大抵10~20万円ですし,民事再生の積立金も月約2万円~5万円×6か月程度がほとんどです。

 これに対し,①事件の相手方から回収したお金は,事件によっては大きくなることがあります。最近は事件としてほとんどなくなりましたが,過払返還請求の全盛期には,数十万から数百万円の過払金を,いくつもの消費者金融から回収し,預かっていたケースが多くあったようです。
 特に,今回破産に至った東京ミネルヴァのように,テレビCMで過払金事件やB型肝炎訴訟を集め,定型的に解決してきた法律事務所は,多くの依頼者のために回収したお金を預かっていた可能性が高いと思われます。

 もっとも,通常,①②③の預り金は,弁護士が要した費用を除いた上で,依頼者の方にお返しします(当たり前ですが。)。依頼者の方にお返しする際に弁護士が要した費用以外に差し引くこと以外に,預り金に手を付けることはありませんので,「預り金債務」があったとしても,お返しできるだけのお金が残っているのが普通です。

 しかし,稀に,依頼者の預り金に手を付けてしまう弁護士がいるのも事実です。これで懲戒になったり,訴訟になってしまった弁護士も稀にいます。東京ミネルヴァがどうだったのかは,続報を待つほかありませんが(広告費債務が莫大な可能性もあります。),仮に預り金に手を付けてしまっていると,非常に多くの依頼者に迷惑をかけてしまっているかもしれません。

弁護士法人の破産だから弁護士は大丈夫?

 今回破産手続開始決定がなされたのは,「弁護士法人」であり,自然人である弁護士個人ではありません。
 そのため,弁護士個人は影響を受けない…と思いたいところですが,株式会社の経営者や株主と異なり,「弁護士法人」の社員は,弁護士法人について無限連帯責任を負います(弁護士法第30条の15第1項)。また,弁護士法人の解散後2年が経過するまで,無限連帯責任を負い続けることになります(弁護士法第30条の15第7項,会社法612条)。

(社員の責任)
第30条の15 弁護士法人の財産をもつてその債務を完済することができないときは、各社員は、連帯してその弁済の責めに任ずる。
(中略)
7 会社法第612条の規定は、弁護士法人の社員の脱退について準用する。ただし、第4項の場合において、指定事件に関し依頼者に対して負担することとなつた弁護士法人の債務については、この限りでない。

弁護士法

(退社した社員の責任)
第612条 退社した社員は、その登記をする前に生じた持分会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う。
2 前項の責任は、同項の登記後2年以内に請求又は請求の予告をしない持分会社の債権者に対しては、当該登記後2年を経過した時に消滅する。

会社法

 すなわち,東京ミネルヴァの社員となっていた弁護士は,法人が抱える51億円の負債のうち,今回の破産手続きの中で返済することができずに残った債務がある場合には,その債務について弁済責任を負うことになります。

弁護士が破産すると大変…

 東京ミネルヴァにどれだけの財産が残っていたのか,どれだけ債権者の方に返済できるのかは分かりませんが,もし,1億円でも払いきれない債務が残れば,東京ミネルヴァの社員であった弁護士がこれを負うことになります。しかし,個人弁護士が,1億円もの負債を払いきることはほぼ不可能だと思われます。

 となると,当該元社員弁護士は,自身も破産をするほかなくなります。しかし,弁護士としては,破産はできるだけ避けたいものです。

 というのも,弁護士は,破産手続開始決定がなされると,弁護士資格を失います(弁護士法第7条第4号)。弁護士資格を失うため,弁護士として受任している事件は全て辞任しなければなりません。無職になってしまいます。

 少し知識のある方には,「いや,それでも免責許可決定を受けて,復権すれば,再度弁護士になれるんでしょ?少し我慢したら?」と思われるかもしれません。
 確かに,法律上は,復権をすれば問題ないことになっています。弁護士以外の資格制限を受ける職業も,通常は復権をすれば大丈夫です。

 しかし,弁護士の場合,復権をして再度登録をするためには,改めて所属したい弁護士会の審査を受ける必要があります。この審査において,破産をした者の登録は拒絶されてしまう可能性が相当高いと言われています(実例は知らないのですが…)。

 おそらくは,この登録拒絶の根拠は,弁護士法第12条第1項前段の「弁護士会の秩序又は信用を害するおそれがある者」にあたるということなのだと思われます。すなわち,借金で首が回らなくなってしまった過去がある場合には,それこそ依頼者の預り金に手を付けてしまうとか,金銭面の信用の不安があるため,弁護士会の信用を害する可能性がある,と判断されるのだろうと思います。

 もっとも,そうなのであれば,東京ミネルヴァの元社員弁護士は,(その個人の法人へのかかわり具合や個人の債務の程度にもよりますが)個人として破産をしても,再登録が認められる余地はあるかもしれません。というのも,ある意味,保証債務だけで破産するようなものであり,個人として借金を重ねた場合とは異なる判断がされるべきと考えられるからです。

ほとんど想像なので…

 今後の東京ミネルヴァの破産原因・債務の内容について,続報がなされるか,気になっています。