【天気の子】森嶋帆高と法律(ネタバレあり)
遅れ馳せながら,映画「天気の子」を見てきました。
相変わらずの綺麗な映像(風景描写)とそこにマッチする音楽で,「君の名は」と同様に楽しめる作品になっていました。
本作の気象監修の雲研究者・荒木健太郎さんは高校の同級生なのですが(ただし,多分面識はほぼないレベル…),彼のおかげか,作品内の天気の描写はとてもリアルでした。
「君の名は」を楽しめた方は,本作も楽しめると思いますので,是非ご覧になってはいかがでしょうか。
(以下ネタバレを含みます。)
この記事の目次
森山帆高は少年法により保護される
さて,表題の「森嶋帆高と法律」ですが,本作のヒーロー・森嶋帆高(以下「帆高」という。)は,ヒロイン・天野陽菜と出会う前から作品のクライマックスまで,数々の非行・違法行為を行います。ここでは,それを覚えている限り挙げた上で,帆高がどうなってしまうのか(どうなってしまい得るのか)を検討したいと思います。
なお,帆高は,16歳の「少年」です(少年法2条)。そのため,少年法により保護される立場にあります。
少年法では,14歳以上の罪を犯した少年(犯罪少年。法3条1項1号)については,大雑把には,
①警察が捜査(逮捕する場合もあり。)
②警察から検察へ送致
③検察から家庭裁判所に送致(送致前に勾留することもあるが,最終的には全件送致。)
④家庭裁判所で少年の処分を決めるための審判を開始するかを決定
(この際,処分を決めるために鑑別所での鑑別が必要と判断される場合,観護措置の決定。)
(観護措置にせず,審判を開始する場合,⑥へ)
⑤観護措置の場合,少年鑑別所に収容され,鑑別技官による調査を受ける(最大4週間)
⑥家庭裁判所調査官の調査も実施される
(観護措置に付さず,より詳細な調査が必要な場合,数か月にわたる試験観察となることもあり。)
⑦審判により不処分,保護観察,少年院送致のいずれかに。
という流れで処分が決まることになります(ただし,「死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。」(所謂「逆送」)とされています(法20条1項))。
帆高の非行
私が覚えている限り,帆高は,ストーリー上次の行為を行っていました。
1.家出
2.発見・拾得したした銃の無届
3.発見・拾得した銃の携行
4.スカウトマンへの発砲
5.発砲による電灯の破壊
6.廃ビルへの侵入
7.バイクの後部座席でヘルメットの顎紐を絞めず
8.線路に侵入
9.威嚇射撃
10.警察官への暴行
これらがどういう法律に引っかかるかというと…
家出
家出自体は犯罪ではありませんが,少年法は「少年の健全な育成を期」することを目的としています。
そのため,犯罪には当たらなくとも,将来犯罪を犯すかもしれないと思われるような傾向のある少年についても,保護の対象としています(虞犯少年。少年法3条1項3号)。
少年法第3条 次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
三 次に掲げる事由があつて,その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
帆高の家出は,上記のうち,イとロにあたる可能性があります(家出の詳細な事情が分からないため,問題のない家庭を想定していますが,親から虐待を受けているような場合には,「性格又は環境に照して」虞犯にあたらないと判断される可能性もあります。)。
発見・拾得したした銃の無届と
発見・拾得した銃の携行
帆高は,雑居ビルの軒先で野宿をしていた際に,ごみ箱の中から封筒に入れられガムテープで巻かれた「重い何か」を発見し,これをマクドナルドで開封したところ,拳銃であることが分かっています。
しかし,帆高は,これを警察に届け出ず,「お守り」として携行してしまいます。
銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)23条は,「銃砲又は刀剣類を発見し,又は拾得した者は、すみやかにその旨をもよりの警察署に届け出なければならない。」と定めており,これに違反した場合には20万円以下の罰金に処するとされています(同法35条1項2号)。
また,銃刀法3条1項は「何人も,次の各号のいずれかに該当する場合を除いては,銃砲又は刀剣類を所持してはならない。」として,限られた職業・資格を有していない場合には銃砲を所持してはならないと定め,これに違反した場合には,「第3条第1項の規定に違反してけん銃等を所持した者は,1年以上10年以下の懲役に処する。」(同法31条の3第1項),さらに,「前項の違反行為をした者で,当該違反行為に係るけん銃等を,当該けん銃等に適合する実包又は当該けん銃等に適合する金属性弾丸及び火薬と共に携帯し,運搬し,又は保管したものは,3年以上の有期懲役に処する。」 (同条2項)と,非常に重い刑罰に処されることになっています。
刑法において3年以上の有期懲役が法定刑となっているのは,傷害致死罪ですので,それに匹敵するレベルの犯罪,ということになります。
スカウトマンへの発砲と
発砲による電灯の破壊
さらに,帆高は,陽菜をスカウトマンから助けるため(もっとも,陽菜は任意で付いて行っていたようですが…),自身に馬乗りになり暴行を加えてきたスカウトマンに対し,上記の拳銃を発砲します。
拳銃の発砲については,銃刀法3条の13にて「何人も,道路,公園,駅,劇場,百貨店その他の不特定若しくは多数の者の用に供される場所若しくは電車、乗合自動車その他の不特定若しくは多数の者の用に供される乗物に向かつて、又はこれらの場所…若しくはこれらの乗物においてけん銃等を発射してはならない。ただし、法令に基づき職務のためけん銃等を所持する者がその職務を遂行するに当たつて当該けん銃等を発射する場合は、この限りでない。」と定めており,これに違反した場合には,無期又は三年以上の有期懲役に処する(同法31条1項)とされています。
刑法において無期又は3年以上の有期懲役が法定刑となっているのは,強制わいせつ致死傷罪,身代金目的略取罪等と,非常に重い犯罪になっています。
また,帆高は,スカウトマンに対し銃口を向け発砲し,結果的にスカウトマンにはあたらなかったものですから,スカウトマンに対する殺人未遂罪(刑法203条)が成立する可能性がありますし,仮に殺意がないとしても,暴行罪(同法208条)が成立します。また,スカウトマンにあたらなかった銃弾が電灯を破壊していますから,器物損壊罪(同法261条)も成立します。
帆高の言い訳について
なお,この拳銃について,帆高は,「本物だとは思わなかった!」と釈明していましたが,重さやディティールから本物かの判断は付くと思われますし,自身が危険にさらされた際に咄嗟に取り出して銃口を向けたということから,「大人を容易に威嚇し得る程度の能力を有した武器」であると認識していたものと思われますから,「本物じゃないと思った」という釈明はかなり厳しいんじゃないかと思われます。
仮に,本物ではないと思っていた(エアガンだと思っていた)との釈明が通用した場合であっても,「弾丸の運動エネルギーの値が,人の生命に危険を及ぼし得る」空気銃は銃刀法の規制対象となっていますから(銃刀法2条1項),やはり,大人に対し威嚇に使える程度の能力を持っていると認識していた以上,銃刀法違反は免れないのではないかと思われます。
廃ビルへの侵入
帆高と陽菜は,スカウトマンから逃れて新宿の廃ビルに侵入しました。この行為は建造物侵入罪(刑法130条)にあたる可能性があります。ただし,この廃ビルが完全に誰も管理しておらず,物理的にも出入り自由な場合には建造物侵入の「人の看守する…建造物」との要件を満たさない可能性があります。
なお,この場で,帆高は,上記の拳銃を捨てています。
バイクの後部座席でヘルメットの顎紐を絞めず
その後ストーリーは飛びますが,クライマックス近くで帆高は須賀夏美のバイクの後部座席に乗り,警察の追跡から逃れようとします。
これまでの犯罪等に比べれば軽微なものですが,ここで,帆高はヘルメットを装着はするのですが,顎紐を絞めずに乗っています。
道路交通法71条の4第1項は,「大型自動二輪車又は普通自動二輪車の運転者は,乗車用ヘルメットをかぶらないで大型自動二輪車若しくは普通自動二輪車を運転し,又は乗車用ヘルメットをかぶらない者を乗車させて大型自動二輪車若しくは普通自動二輪車を運転してはならない。」と定めており,これに違反した場合には運転者に違反点数1点が付くことになっています。
すなわち,この行為は,夏美の道交法違反にはなるものの,帆高の法令違反行為にはなりません。
帆高の非行の一内容としてとらえられる可能性は無きにしも非ずですが,それ以外の非行がとんでもない状態なので,なかったことにされる可能性の方が高いでしょう。
線路に侵入
夏美のバイクが水に浸かってしまい動けなくなってから,帆高は,JRの線路に侵入し,線路沿いに新宿を目指します。
鉄道営業法37条は,「停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス」と定め,線路に立ち入った場合には科料(80円以下となっていますが,罰金等臨時措置法2条3項により1万円未満となります。)に処されます。
また,線路への立入りによって「電車の往来の危険を生じさせた」場合には,往来危険の罪にあたり,2年以上の有期懲役に処されます(刑法125条1項)。
しかし,本作の中では,前の晩の未曽有の豪雨により電車は完全に運行を止めている状態であったと思われますので,往来の危険が生じる余地はなく,したがって,往来危険の罪が成立する余地もなかったものと思われます。
威嚇射撃
そして,再び新宿の廃ビルにやってきた帆高は,そこに先に来ていた須賀圭介に素直に出頭するよう説得を受けますが,「6.廃ビルへの侵入」の際に捨てた拳銃を再び手にし,陽菜のところへ行かせろと点に向かって威嚇射撃をします。
この威嚇射撃は,明らかに手に持っているものが拳銃であると認識した上で行ったものですから,銃刀法違反に当たりそうです。
しかし,先に見たように,銃刀法3条の13は,「道路,公園,駅,劇場,百貨店その他の不特定若しくは多数の者の用に供される場所…においてけん銃等を発射してはならない。」と定めており,原則として誰も立ち入らない新宿の廃ビルが「不特定若しくは多数の者の用に供される場所」に当たるかについては,十分に争う余地があると思われます。
もっとも,銃刀法違反には当たらないとしても,「自己の徳性を害する行為」(少年法3条1項3号ニ)を繰り返していることは間違いないと言えるでしょうから,虞犯には該当するでしょう(拳銃の無届・携行・発射で犯罪少年に該当してしまっていますが。)。
警察官への威嚇・暴行
そして,最後には,帆高は警察官にも銃口を向けた上,拳銃をおとりにビルの上階に向かおうとしますが,取り押さえられ,なおも抵抗します。
この帆高の行為は,公務執行妨害罪(刑法95条1項)に該当する可能性があります(その前にも職務質問の警察官から逃れようとして警察官から「公妨!」と叫ばれていましたが,あれでは公務執行妨害には当たらないのではないかなと思っています(警察官は簡単に公妨公妨言いますが。)。)。
非行・違法行為のオンパレードであるから重い処分になりそうだが…
以上のように,帆高の行為は,私がざっと思い出せるだけでも非行・違法行為のオンパレードであるだけでなく,拳銃がらみの点は非常に重い罪を犯している状態にあります。
単なる家出少年が警察官から逃げ回っただけであれば,家庭の状況次第では家裁送致となっても審判不開始,審判になってしまったとしても不処分,悪くても保護観察になると思われます。
しかし,上記のような重い罪を犯している状態ですと,帆高の場合には自宅にも寄り付かない可能性があることを踏まえれば,逮捕→勾留→家裁送致→審判開始決定・観護措置決定→審判にて少年院送致,若しくは,逮捕→勾留→家裁送致→審判開始決定・観護措置決定→検察官送致(逆送)→起訴→刑事裁判という重い流れも十分に考えられるところです。
なんとスムーズに卒業!
もっとも,ストーリー上,帆高は,3年間の保護観察期間を経て,無事に同級生とともに高校を卒業しています。
逮捕→勾留→観護措置,となれば,2か月程度は学校にいけません。
さらに,帆高は,警察官に対し,雨が止み晴れたのは陽菜が犠牲になったからだとか,(一般の大人から見れば)妄想めいた発言を繰り返していましたから,精神面の鑑定のために鑑定留置となる可能性も十分にあり,そうするとプラスで2~3か月程度は学校にいけません。
そうなると,出席日数不足で留年,場合によっては(非行の事実も踏まえれば)退学もあり得ると考えられます。
しかし,帆高は,何のことなしに卒業している(さらに,非行事実は学校の噂程度にしかなっていない)ことからすると,逮捕はされたものの勾留されずに家裁送致され,観護措置には付されずに試験観察で在宅で調査を受け,保護観察処分の審判を受けた,ということなのでしょう。
ファンタジーではありますが…
正直,ちょっと無理があるかな…と思ってしまったところです(物凄く優秀な付添人が頑張った可能性はありますが…)。
いや,物語全体がファンタジーなんだから(「天気を操れる子」の存在に「無理がある」とは言わない),そのくらい許容しなさいよ,と言われることは重々分かっているのですが,職業柄どうしても気になってしまいました。
「天気の子」をもう一度見る際に,思い出してみていただければと思います。
投稿者プロフィール
- (仙台弁護士会所属)
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