弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所に依頼していた方は何ができるか
この記事の目次
弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所破産のニュース
「法律事務所(弁護士法人)の破産…」を書いた後,NHKのニュースが公開されました。
このニュースによると
弁護士会 会長「到底許されない」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200624/k10012482861000.html
東京ミネルヴァ法律事務所の破産手続き開始について、第一東京弁護士会の寺前隆会長は「全国で広報活動を展開し、多数の依頼者から過払い金の請求やB型肝炎の裁判を受けたまま業務を停止した。調査の結果、過払い金の保管状況に不明な点があり、依頼者に返還することが困難な状態に陥っている疑いがあることも判明した。多数の依頼者に甚大な不利益を与えるもので弁護士法人として到底許されるものではなく、弁護士会としても厳粛に受け止めている」とするコメントを出しました。
と,先の記事で懸念していた「④依頼者からの預り金債務」の問題がやはり存在していたようです。また,「多数の依頼者から過払い金の請求やB型肝炎の裁判を受けたまま業務を停止した」ということは,⑤着手金の清算問題も残っていると思われます。
追記:第一東京弁護士会の会長談話が発表されました。
同法人は、全国を対象に広告活動を展開し、多数の依頼者から過払金請求事件及びB型肝炎事件等を受任していたにもかかわらず、これらの事件を受任したままで業務を停止しました。
また、当会による調査の結果、回収した過払金等の保管状況に不明な点があり、依頼者に返還することが困難な状況に陥っている疑いがあることも判明しました。
http://www.ichiben.or.jp/opinion/opinion2020/post_440.html
そうすると,弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所(以下「東京ミネルヴァ」と言います。)に依頼している方,依頼していた方(解決済みだが預り金の返金を受けていない方)は,これから何ができるのでしょうか。
※ なお,東京ミネルヴァに依頼している方は,同法人に対する破産手続開始決定により委任契約が当然に終了します(民法第653条第2号)。
東京ミネルヴァに依頼している方・依頼していた方は,これから何ができるか
破産手続きに参加しましょう
「破産手続き」は借金をチャラにする手続きではない!
これから東京ミネルヴァの依頼者の方,依頼していた方ができるのは,東京ミネルヴァの破産手続きへの参加です。
「え,破産って借金をチャラにするものじゃないの?」と思われるかも知れませんので,破産手続きについて極簡単に説明しますと,破産手続きは,「法人・自然人の財産を全部現金化して,債権者に対し,(順位付けと債権額に応じて)平等に振り分ける手続き」です。
大雑把には,法人の場合,法人の財産を全部返済に充てると手続きが終了し,法人格が消滅しますので,残りの債務は(保証人や無限責任を負うもの以外)誰も支払わず,回収できずに終わります。
これに対し,自然人(=我々人間)の場合,財産を債権者に振り分けたとしても,人格が消える(死んでしまう)わけにはいかないため,振り分け後に「免責手続き」が行われ,免責が許可されると借金の返済義務がなくなる,というシステムになっています。
債権者から見た破産手続きの流れは?
上記のとおり,破産手続きは,「財産を全部現金化して,債権者に対し,(順位付けと債権額に応じて)平等に振り分ける手続き」ですので,東京ミネルヴァの依頼者の方,依頼していた方は,破産手続きに参加することで,東京ミネルヴァに残っている(はずの)財産の振り分けを受けることができる可能性があります。
債権者から見た場合,破産手続きは,大まかには,①裁判所から破産手続開始決定の通知,➁債権者から債権届出,③債権者集会(財産状況報告集会)への参加,④配当金の受領,という流れで進みます。
①裁判所から破産手続開始決定の通知
債権者の方には,破産手続きが行われる裁判所から,東京ミネルヴァについて破産手続きが開始されたこと(その日時),破産管財人弁護士の氏名・事務所・連絡先,財産状況報告集会の日程,債権届出期間を知らせる破産手続開始通知書が届きます(内容的には https://www.tokyo-keizai.com/archives/53067 掲載の告示書とほぼ同じになると思われます。)。
ただし,この破産手続開始通知書は,申し立ての時に把握されている債権者(裁判所に対して「この人が債権者ですよ」と報告された債権者)にしか届きません。そのため,債権者が相当多数であったり,申立てまでの時間的余裕がなく資料がまとめきれていなかったりすると,報告漏れが生じ,本当は債権者であるのに破産手続開始通知書が届かないこともあります。
東京ミネルヴァのケースでは,弁護士会が債権者として申し立てており,債務者である東京ミネルヴァ自身が破産を申し立てる場合と比較して資料が不足している可能性が高いこと,所属弁護士がすでに散り散りになっており,聴き取り調査も十分にできていない可能性が高いことからすると,東京ミネルヴァの依頼者の方,依頼していた方の全てに破産手続開始通知書が届かない可能性があります。
➁債権届出
通常,上記の破産手続開始通知書に債権届出のための書式が同封されています。債権者の方は,この債権届出の書式に自身の債権の情報を記入の上,裁判所に債権を届け出る必要があります。
それでは,裁判所から破産手続開始通知書が届かなかった場合にはどのようにしたらよいのでしょう。
この場合には,破産手続きの開始を知っている債権者の方は,破産管財人弁護士に直接連絡し,自らが債権者であることを説明の上,債権届出書を送ってもらうよう依頼する必要があります。
すなわち,もし,東京ミネルヴァの依頼者の方,依頼していた方の中で,債権者であるのにいつまで経っても(2週間程度経っても)破産手続開始通知書が届かない場合には,岩崎晃弁護士(岩崎・本山法律事務所,東京都中央区八丁堀4-1-3 宝町TATSUMIビル5階,TEL 03-6222-7233)に連絡をした方がよいでしょう。
なお,通常,債権届出期間は1か月程度ですが,債権者多数の場合には届出期間を定めないこともあります。本件は定めないケースになるかもしれません。
参考:債権届をされる方へ
③債権者集会(財産状況報告集会)への参加
財産状況報告集会は,裁判所において,担当裁判官と債権者の方に対し,破産管財人から,破産法人の役員や従業員への聴き取りや資料の精査の結果を踏まえ,破産に至った経緯,破産法人の財産状況,今後の破産手続の進行予定,配当の見込み等について説明をする機会です。
この財産状況報告集会に債権者が参加することは必須ではありません。もっとも,今後の配当の可能性について知りたい,というような場合には,財産状況報告集会に参加して説明を聞くのが最も確実です(債権者多数の場合,財産状況報告集会以外の機会での個々の債権者からの問い合わせに破産管財人が対応しきれない可能性があります。)。
なお,財産状況報告集会は1回で終わらず,破産手続きの終結まで何度か開催され,その間の進捗状況が報告されることになります。
④配当金の受領
配当は,あるかもしれないですし,ないかもしれません。
破産法人にある程度財産が残っていれば,配当手続きがなされます。もっとも,以下のとおり,配当にも順番があります。
順位 | 債権の例 | |
1 | 財団債権 | 手続費用,管財人報酬,公租公課,退職前3月間の給料等 |
2 | 優先的破産債権 | 財団債権以外の公租公課,共益費用,財団債権以外の労働債権等 |
3 | 一般破産債権 | 財団債権,優先的破産債権,劣後的破産債権以外の債権(貸金債権,売買代金債権等々) |
4 | 劣後的破産債権 | 破産手続開始決定後の利息,遅延損害金,延滞税,加算税等 |
それでは,東京ミネルヴァの依頼者の方,依頼していた方の債権はどれにあたるでしょうか?おそらく,預り金債権も,着手金の清算金債権も一般的破産債権(=3番目)になると考えられます。
そのため,未払いの公租公課や労働債権(給与)の総額が高額である場合,配当できる財産があったとしても,3番目である一般的破産債権まで配当できる財産が残らない可能性もあります。
この場合には,一般的破産債権の債権者に対する配当は行われないまま,破産手続きは終了します。
他方で,3番目である一般的破産債権まで配当できる財産が残っていた場合には,破産管財人から一般的破産債権の債権者に対し,配当額及び配当日時が記載された「配当通知書」が送付されます。この配当通知書記載のとおりの配当がなされると,破産手続きが終了します。
ただし,3番目に該当する債権者が多数・多額に上る場合には,個々の債権者の方が受け取れる配当は非常に少額になる可能性があります。
さいごに
以上が破産手続きにおいて,東京ミネルヴァの依頼者の方,依頼していた方がなし得る対応です。
この東京ミネルヴァの破産手続き内で,債権全額の満足を得られなかった場合には,残債権について東京ミネルヴァの元社員弁護士(ここでいう「社員」とは,従業員のことではなく,法人の構成員としての社員を指します。)に対して請求をすることを検討することになります。
もっとも,東京ミネルヴァの財産を配分しきっても多額の債務が残ってしまう場合には,個人が支払いきることも困難だと思われます。次は元社員弁護士の破産手続きがなされるかもしれません。そうなると,裁判所が元社員弁護士について免責を許可した場合には,それ以上の債権回収方法はなくなってしまいます。
そのため,まずは,東京ミネルヴァの破産手続き内で,十分な配当がなされることを期待するしかありません。
不明な点は,第一東京弁護士会の窓口に相談してみてもよいと思います。以下のリンクをご確認ください。
投稿者プロフィール
- (仙台弁護士会所属)
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