患者さんからの苦情に、どこまで応じるべきか。診療に問題があったかもしれないと感じたとき、まず何をすべきか。窓口の職員が疲弊しはじめたとき、誰に相談すればよいか。

結論から申し上げれば、診療上の問題が疑われる場合は、可能な限りお早めにご相談ください。不当な要求が続いている場合は、業務に支障が出はじめそうな時点が相談の目安です。

弁護士渡邊涼平は、仙台で病院・クリニックの側に立って対応しています。そのため、利益相反が生じないよう、原則として、患者さんからのご相談はお受けしていません。

1. 弁護士に相談すべきタイミング

診療上の問題が疑われる場合 ― 早めに

患者さんやご家族から、診療の内容について具体的な説明を求められた場合。このとき、「過誤はない」というご認識であっても、一度ご相談いただくことをお勧めします。

なぜならば、医学的な評価と法的な評価が必ずしも一致しないからです。医学的に相当な処置であっても、事前の説明が十分でなかったと判断されれば、説明義務違反が問われることがあります。手技そのものに問題がなくとも、法的には別の論点が残っている場合があるということです。

また、早い段階でご相談いただければ、その後の説明の場をどう設定するか、どの範囲で何を説明するか、記録をどう残すかについて、あらかじめ方針を立てることができます。説明の場が一度持たれた後では、選べる手段が限られてくることも少なくありません。

不当な要求が続いている場合 ― 業務に支障が出はじめそうなとき

暴力的な行動があれば速やかにご相談いただくのが相当ですが、そうではない場合の判断の目安は、院内の業務に影響が出はじめそうかどうかです。次のような兆候があれば、ご相談ください。

ご相談が必要な状況のサイン

  • 対応した職員が休みがちになっている
  • 他の患者さんから「あの人がずっといる」という苦情が出ている
  • 電話が特定の相手で埋まり、他の患者さんがつながらない

これらは、クレーム対応が個人の我慢の問題から、医療機関の運営の問題に変わった合図です。ここまで来ると、現場の努力だけで収束させることは難しくなります。

2. 避けていただきたい初動

初期対応を誤ると、本来は解決できたはずの事案が長期化します。次の5つは、特に避けるべき対応です。

  1. いきなり診療を拒否する 応召義務との関係で問題になります。正当な事由がないまま診療を断ると、それ自体が新たな紛争の火種になります。詳しくは4.診療を断ることはできるか(応召義務)をご覧ください。
  2. 患者さんを見下すような応対をする 当初は診療内容への不満だったものが、応対への怒りに転化します。もともとの争点が何であったかにかかわらず、紛争が長期化する最大の要因です。
  3. 診療情報を隠そうとする 診療録は開示の対象です。隠そうとしてはいけませんし、そのようなことをすれば、後の交渉や訴訟で不利な評価の対象となり得ます。
  4. 事実と異なる説明をする 一度でも事実に反する説明をすると、それ以降のすべての説明が信用されなくなってしまいます。分からないことは「確認の上でご回答します」と返答していただき、事実確認の上で正確な回答をすべきです。
  5. 医療以外の質問に、その場で口頭で回答する 「治療費はどうなるのか」「補償してもらえるのか」といった金銭に関する質問に、その場で答えてはいけません。後に「約束した」と主張されることもあり得ます。

    さらに注意が必要なのは、医師賠償責任保険との関係です。保険会社の承認を得ないまま医療機関が独自に金銭的な約束をすると、医賠責を利用できなくなるおそれがあります。この点でも、金銭に関する話が出たとしても、その場での回答は避ける必要があります。

3. 「正当な苦情」と「不当要求」は、きれいに分かれない

実用書的なものには「正当な苦情には誠実に対応し、不当要求には毅然と対応する」と書かれていることがあります。しかし、実際には、「正当な苦情」と「不当要求」の区別が最初から明らかであることは、ほとんどありません。

診療内容への正当な指摘から始まり、対応の過程で要求が過大になっていくことがあります。反対に、当初は理不尽に見えた訴えの背景に、実は説明不足があったと判明することもあります。過誤の自覚がない事案に、法的な問題が含まれていることもあります。

そのため、「不当要求」であると思い込んで対応を始めてしまってはならない、というのが実態です。だからこそ、早い段階で事態に対する第三者の目(第三者の評価)を入れる必要があります。

4. 診療を断ることはできるか(応召義務)

医師法19条1項の応召義務については、令和元年12月25日付けの厚生労働省通知(医政発1225第4号「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」)により、判断の考え方が整理されました。当事務所でも、この通知が示す事例に沿ってご説明しています。

通知の要点は次のとおりです。

  • 応召義務は医師が国に対して負う公法上の義務であり、患者に対する私法上の義務ではない
  • 診療の求めに応じるかどうかは、緊急性の有無を主たる判断要素とする
  • 患者と医療機関の信頼関係が破壊されている場合、新たな診療を拒むことが正当化されうる
  • 支払能力があるにもかかわらず悪意をもって支払わない場合も、考慮要素となる

ただし、これは「迷惑な患者は断ってよい」という意味ではありません。緊急性が高い場合には、信頼関係が失われていても診療を要するとされています。実際の判断は、緊急性の程度、これまでの経緯、他の医療機関で対応可能かどうかなど、事案ごとの検討が必要です。

5. 弁護士が入ると何が変わるか

窓口を一本化できる

やり取りの窓口を代理人に集約することで、職員が直接対応する負担がなくなります。前記のサインが出ている場合、この効果が最も大きく現れます。

交渉の記録が残る

代理人が入ると、やり取りが書面を中心としたものになります。何をいつ求められ、どう回答したかが残るため、仮に訴訟に至った場合の備えになります。

弁護士が関与していること自体の効果

代理人が就いたことで、要求の内容が具体的になり、あるいは沈静化することがあります。もっとも、これは相手方によって異なります。後述のとおり、逆の可能性も含めてご相談時に検討します。

6. よくあるご質問

謝罪すると、過失を認めたことになりますか

なりません。医療は結果を保証するものではなく、手技や治療過程に問題がなくとも不可避的に生じる合併症があります。期待した結果が得られなかったことに対し、医師が「申し訳ない」と感じ、それを患者さんやご家族に伝えることは自然なことです。

裁判所も、謝罪の事実だけから責任を認めるという判断はしていません。福岡地裁平成25年11月1日判決は、看護師の謝罪について、結果に対するものであって行為の態様に問題があったことを自認する趣旨とは考えがたい、と判示しています。

詳しくは医師・病院経営者のご相談のページで解説しています。

診療録の開示を求められました。応じなければなりませんか

応じる義務があるとお考えください。個人情報保護法上の保有個人データの開示請求に該当し、さらに厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」も、患者さんからの求めに応じて診療記録を開示すべきものとしています。

開示を拒めるのは、第三者の利益を害するおそれがある場合など、限られた場面です。「トラブルになりそうだから」という理由で開示を拒むことはできません。むしろ、隠そうとしたという事実が後に不利に評価をされることもあります。

クチコミに事実と異なることを書かれました。削除できますか

書かれている内容によります。

削除が認められにくいもの:待ち時間が長い、対応が冷たいと感じた、といった個人の感想や意見にとどまる場合。評価そのものは表現の自由の範囲とされ、削除は容易ではありません。

削除が認められうるもの:実際には行われていない言動や、起きていない事故が書かれている場合。事実に反する具体的な記載であれば、削除請求が認められる余地があります。

まずは投稿内容を確認させてください。

患者さんが会話を録音していました。問題になりますか

同意なく録音されたものであっても、それだけで違法とはいえません。裁判で有効な証拠として扱われることがほとんどです。

したがって、常に録音されているという意識で会話をすることが望ましいといえます。録音を前提としても差し支えのない説明を心がけていただくのが、結果として医療機関を守ることになります。

弁護士に依頼すると、かえって相手を刺激しませんか

相手方の請求内容やお人柄によって異なります。代理人が就くことで沈静化する事案もあれば、そうでない事案もあります。

そのため、ご相談の際には、これまでの経緯や相手方の言動をできるだけ詳しくお聞かせください。そのうえで、代理人を立てるべきか、まずは助言にとどめるべきかを一緒に検討します。

顧問契約をしていなくても相談できますか

はい。ご相談料はいただきますが、お気軽にご相談ください。

ご相談は予約制で、面談またはオンラインで承ります。料金は弁護士費用一覧をご覧ください。

なお、顧問契約中の医療機関には、電話・FAX・メール・オンラインによるご相談を回数の制限なくお受けしています。

患者さんからの苦情・不当要求について、ご相談を承っています。

022-222-5822

受付時間:平日9:00〜17:30(ご相談は18:00まで承ります)

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ご相談は予約制です。利益相反が生じないよう、原則として、患者さんからのご相談はお受けしていません。